こんな映画観ました「TAR/ター」

クラシックはお好き?

皆さん、クラシック音楽はお聴きになりますか?私は若い頃からクラシック音楽が好きで大学生の時には〇〇大学交響楽団にも所属していてヴィオラを担当していました。中学・高校の時から好きだったのですが、その時は周りが歌謡曲や洋楽のファンばかりだったので、同調するのが嫌いだった私はクラシック音楽を選んでいた一面もありました。ただ、聴いていて楽しいのはクラシック音楽でした。クラシック界でベルリンフィルハーモニーといえば当時から一流のオーケストラで多くのファンのあこがれでした。そのベルリンフィルハーモニーの首席指揮者の映画とくれば観ない訳にはいきません。クラシック音楽をあまりお聴きにならない方でも、フルトヴェングラーカラヤンアバドの名前は聞いたことがあるのではないでしょうか。そのベルリンフィルハーモニーの初めての女性首席指揮者となったのがこの映画の主人公「リディア・ター」です。そうです、この映画のタイトルは彼女のファミリーネームなんです。このように書くと女性の団員が普通のように感じますが、実はクラシック界はつい最近まで男性社会と言ってもよい世界だったんです。特にベルリンフィルハーモニーやウィーンフィルハーモニーは日本でいう昭和の時代までは女性は入団することが出来ませんでした。女性団員が入るきっかけとなった一つは、ベルリンフィルハーモニーで起こったザビーネマイヤー入団の問題です。当時の芸術監督だったヘルベルト・フォン・カラヤンクラリネット奏者であるザビーネ・マイヤーを入団させようとしたのですが、団員からは大反対の声が上がりました。理由は「音色が合わないから」。最終的には彼女は入団しなかったのですが、その事件以降カラヤンベルリンフィルハーモニーの間がギクシャクしたとのことです。ただ、現在では約20名の女性団員がいるそうです。ただ、世の中と比べるとまだまだ少ないと言えます。(これは単に男女比の問題として記載しています)

映画の話しに戻りますが、ターは主席指揮者としてオーケストラをまとめようとするのですが、様々な問題が起こります。映画評論にはどのような問題が起きたかは記載があるのでこのブログではネタバレは書かないようにしているので詳細は触れませんが、できればこの映画をご覧になる前に、マーラー交響曲第5番と、エルガーのチェロ協奏曲は聴いていただくと、より理解が深まると思います。また、できればヴィスコンティ監督の「ヴェニスに死す」もご覧になってからこの映画を観ると話しがよりよく理解できると思います。

具体的なストーリーは書きませんが、正直言いまして1回見ただけでは私には理解できない話しの流れでした。おそらく5回くらい観るとある程度のストーリーが把握できて、10回くらい観ればかなり理解ができるような作品でした。あくまで私の理解力の問題だと思います・・・ 特に初めのインタビューや学生とのトークシーンでは音楽についての考えを伝える言葉が多く、理解しながら見続けるのはかなり大変でした。ひょっとしてこの会話シーンがずーっと続くのではと考えると頭を休める暇がない映画なのかと考えてしまったりしました。また、最後には東南アジアのとある国に舞台が飛ぶのですがそのあたりも私の理解力不足で他の人に説明できない内容でした。内容を理解できているというのは、他の人に対して説明することができるという意味なので、この映画も含めて理解できたと言える映画はかなり少ないのではないかと落ち込んでいます。

主演女優について

主演はケイト・ブランシェットケイト・ブランシェットといえば多くの出演作が思い浮かびます。彼女はオーストラリアのメルボルン出身。1969年5月14日生まれなので54歳のなったばかりです。主な出演作は「エリザベス」、「ロード・オブ・ザ・リング」シリーズ、「ホビット/シリーズ」、「インディ・ジョーンズクリスタルスカルの王国」、「ナイトメア・アリー」など多くの作品があります。特に「ブルージャスミン」ではアカデミー主演女優賞、「アビエイター」ではアカデミー助演女優賞を獲得するなど、国際的な評価が高い女優です。私は以前、ケイト・ブランシェットケイト・ウィンスレットがごちゃごちゃになっていた時があり、今回のこの作品も主演女優の名前を見て、アッ「タイタニック」の女優さんかと勘違いしました(笑)

前半で書きましたが、事前にこの映画に関連する音楽を聴いたり、映画を観たりするとより理解がしやすくなると思います。もちろん観てなくても聴いてなくてもハラハラする場面もあり、考えさせる場面もありでサイコスリラーとしても楽しめる作品でした。

 

ラ・フォル・ジュルネTOKYO2023 行って来ました!

4年振りのラ・フォル・ジュルネ

2019年以来、コロナで中止になっていたクラシック音楽祭、「ラ・フォル・ジュルネTOKYO2023」が開催されました!「ラ・フォル・ジュルネ」は1995年にフランスのナントで開催されていたクラシックの音楽祭を日本でも!と取り上げられて、2005年に初めて開催されました。日本語だと「熱狂の日」と訳されるそうです。

毎回、テーマが決まっていて今年のテーマは「ベートーヴェン」! なぜ「ベートーヴェン」かというと、コロナがちょうど流行し始めた2020年も開催予定だったのですが、残念ながら「ラ・フォル・ジュルネ」をはじめとしてほとんどの音楽祭が中止になりました。ベートーヴェンは1770年に現在のドイツのボンで生まれたので、生誕250周年ということで2020年のテーマは「ベートーヴェン」だったのですが、延期、延期、延期されて2023年のテーマも「ベートーヴェン」なんです。やはりクラシック音楽ベートーヴェンの存在は大きなものがあり、延期になったからテーマを変えるとうい選択肢はなかったんだろうと思います。TOKYOのラ・フォル・ジュルネは「東京国際フォーラム」をメイン会場としているのですが、周辺のエリアコンサートも幅広く行われていて、東京駅周辺の丸の内や八重洲、京橋などでも無料コンサートが行われたりしています。

天候に恵まれてたくさんの人出

私が行ったのは5月6日(土)。今年の開催は5月4日から6日までの3日間で、その最終日に行きました。東京の天気は晴れて気持ちのいい日でしたが、風が強かった!!!東京駅から歩いて国際フォーラムまで行くとフォーラムの中庭(?)はスゴイ人出!キッチンカーもたくさん出ていて、みなさん思い思いのものを食べたり飲んだり楽しんでいます。その場所にいるだけでワクワクして楽しくなります。

私がチケットを買ったのは午後からの3つの公演。まず初めはホールCで行われた、ベートーヴェン「七重奏曲 変ホ長調 op.20」。演奏は各地で活躍されている7名の精鋭です。クラリネット:吉田 誠 ホルン:水野信行 ファゴット:モリス真登 ヴァイオリン:オリヴィエ・シャルリエ ヴィオラ:川本嘉子 チェロ:マクシム・ケネソン コントラバス高橋洋太  正直言って全く知らない曲でしたが、7名のアンサンブルが素晴らしく、とても新鮮な気持ちで聴くことが出来ました。ブラボー!

次はホールAで行われた、神奈川フィルハーモニー管弦楽団 指揮リオ・クオクマン で、ベートーヴェン「シェーナとアリア「ああ不実なる人よ」op.65 ソプラノ:天羽明恵。これも聴いたことない曲でしたが、天羽明恵の美しい声に魅了されました。そして、ベートーヴェン「ピアノ協奏曲第5番 変ホ長調 op.73「皇帝」 ピアノ:アブデル・ラーマル・エル=バシャ。ピアノ曲はよく聴くのですが、ピアノ協奏曲の中でも私の好きな1位、2位を争う曲です! 良かった! ブラボー! 

そして最後は今回のラ・フォル・ジュルネのトリを務めるのにふさわしい曲、ベートーヴェン交響曲第9番 ニ短調 op.125「合唱付」。演奏は同じく神奈川フィルハーモニー管弦楽団 指揮リオ:クオクマンです。このホールCは5,000名入るホールなんですが、コンサート用ではありません。そのため音質の面や音量の面で不満は残るのですが、この第9は5,000名の大ホールでも十分に聴きごたえのある迫力でした。ブラボー!です。

この神奈川フィルハーモニー管弦楽団で期待していたことがもう一つありました。それは主席ソロコンサートマスターの石田泰尚です。この人の風貌を見ると、この人がクラシック音楽を!? この人がヴァイオリンを!?と感じる人が多いと思います。ぜひ一度検索してみて下さい。その石田泰尚を聴きたかったのですがこの日のコンサートマスターは違う方でした。聴くのは次の機会にします。

とても幸せな一日を過ごすことが出来ました。来年も無事に開催できるように祈ってます。

こんなコンサート行きました「G.フォーレ ピアノプログラム・リサイタル」

フォーレ作品だけのリサイタル

いつもご連絡をいただく「びっくり しゃっくり」の柳橋さんからのご案内で、今回のリサイタルを聴いてきました。場所は東京「市ヶ谷」駅近くにある「ルーテル市ヶ谷ホール」です。以前のブログにも書きましたが、本来は協会のホールなのですが、リサイタルとしてもよく使われているホールです。日本福音ルーテル教会の施設で日頃は礼拝堂として使われています。座席数は200席。室内楽などを演奏するには適当な広さなのではないでしょうか。ホール所有のピアノはスタインウェイが2台、ベーゼンドルファーが1台あるそうです。またホールにはパイプオルガンも設置されており、コンサートで使用することもできるそうです。ハルはまだここのパイプオルガンの音を聴いたことがないので、機会があればぜひ聴いてみたいですね!

ピアノとパイプオルガン

プレ・リサイタル

今回のメインは和田華音さんのフォーレの「舟歌」なのですが、プレ・リサイタルとして、小室亜沙美さんのヴァイオリンの小品の演奏がありました。小室さんは現在東京現術大学音楽学部の1年に在学中。3歳よりヴァイオリンを始めたそうです。演奏された作品は、

 J.S.バッハ 無伴奏ヴァイオリンのためのソナタ 第1版BWV1001 ト短調

バッハはピアノの曲はよく聴くのですが、無伴奏のヴァイオリンソナタは初めて聴きました。ピアノ曲も好きなのですが、っこのヴァイオリンソナタもバッハの特徴がよく出た曲で今度じっくりと聴いてみようと思います。演奏はとても素直な演奏で、これからのますます伸びるのではないかと期待できる小室さんです。

 

メイン・リサイタル

演奏は和田華音さんです。彼女は小室さんと同じように東京藝術大学音楽学部卒業後、同大学の大学院にも進みました。現在は、ソロ活動や後進の指導にも当たっているとのことです。

今回のプログラムのフォーレの「舟歌」ですが、全13曲ありリサイタルで全曲演奏されることはほとんどないのではないでしょうか。ハルはほとんどフォーレのことは知りません。ですが、今回この曲を聴いてとてもフワフワとした気持ちになりました。ベートーヴェンのような力強さはありませんし、モーツァルトのような優雅さもありません、ショパンのような華麗さもありません。でも聴いていると落ち着きます。そういう曲が演奏されるリサイタルはなかなかないのではないかと感じました。もともと「舟歌」はヴェネツィアなどでゴンドラの船頭が船の上で歌う歌に由来しているそうです。特徴としては8分の6拍子の緩やかなリズムです。また、「舟歌」の後はやはりフォーレの「8つの小品」です。オールフォーレプログラムもめったにないリサイタルではないでしょうか。主催者の柳橋さんとメールでやりとりしている際に、フォーレだけのプログラムでお客さんを満席にするのは難しいと言っていたのですが、なんとその日は満席です!しかも補助イスまで使っていました。この日の数日前にも柳橋さんからメールもらっていて、まだ席に余裕がありますと書いてあったのですが、そのメールを見ていたのでてっきりガラガラなのでは(失礼!)と思って会場に行きました。すると会場オープンの前から列ができているし、会場内は満席だしどこがお客さんを集めるのが大変なんだろうと思ってしまいました(笑)これも柳橋さんの営業力なんでしょうか!

和田さんの演奏はとても美しく(和田さんも美しい方です)、聴いていてうっとりする演奏でした。また、クラシックのコンサートでは珍しくMCも長めに話しをされていました。和田さんの演奏を聴く機会はあまりなさそうですが、フォーレを聴くことがあったら和田さんの演奏が重なり合って聴くことになるかもしれません。

オール、フォーレプログラム。とてもゆったりとした時間を過ごすことが出来ました!

 

こんな映画観ました「RRR」

インド映画です

こんにちはハルです。インドの映画をご覧になったことはありますか?ハルはかなり以前に観たことがあるのですが、あまり印象に残っておらず、団体でダンスと歌のシーンばかりというイメージでした。インドは年間の映画製作本数が世界一で映画館の数も世界で一番多い国だとかなり前の記事で読んだことがあるのですが、現在はどうなのでしょうか。また上映時間が長い映画が多く、この「RRR」も2時間59分という上映時間でした。映画の半分を過ぎたあたりで、「インターバル」と英語でのメッセージが出るのですが、日本では通しで上映されているとのことでした。インド映画の歌とダンスは、インド映画のお約束事のようで、歌とダンスがない映画の方が珍しいそうです。一つ疑問なのですが、主演する人たちが歌とダンスを踊りますが、今日の映画もそうだったのですが、皆さんダンスも上手なんです!歌はアフレコすればなんとかなるのでしょうけど、ダンスは実際に踊るので代わりに上手な人に踊ってもらう訳にもいかないです。CGで加工しているのでしょうか。ダンスが上手な人を選んで主演にしているのか、あるいは映画に出ることが決まった人は必死になってダンスを覚えるのか疑問に思っています。

楽しい映画です!

週末は何の映画を観ようかと悩んでいたところ、前日の日経夕刊の「シネマ万華鏡」でちょうど取り上げられていました。そこでの評判ではとても元気になる映画とのことです。そして熱く激しい映画との評判です。新聞の文化欄で取り上げる映画や本で、酷評をすることは少ないので、評価が高くても期待しすぎないようにしていたのですが、3時間が長く感じない(決して短く感じたとは言いません)楽しさでした。ストーリーですが、時代は1920年頃のインド。当時は大英帝国がインドを植民地として統治していました。映画の中ではインド人を人として扱っていないシーンが数多く出てきます。実際にここまでひどい扱いをしていたのでしょうか。ある村の少女がインドの総督の家に連れ去られてしまうのですが、その村の英雄であるビーム(N・T・ラーマ・ラオJr )が少女を取り戻すためにデリーに仲間と侵入します。その情報を得た英国側は現地の警察官ラーマ(ラーム・チャラン)にビームを捕まえるように命じます。お互いの本当の姿を知らないまま二人は少年を救助するのに協力して、その後は親友として友情をはぐくんでいきます。実は警官であるラーマもある大儀があり警官になっていたのですが、これ以上書くとネタバレになるので書くのは控えます。映画は長いですがストーリーはわかりやすく最後には、よかったと感じる内容です。                  また、アクションシーンもとても多いです。ただちょっとやりすぎ感が強いかなぁ。アニメのようなアクションシーンになっているところもあり、好き嫌いが分かれるところです。

この映画の主人公の2人は実在の人物をモデルにしています。コムラム・ビームとA・ラーマ・ラージュはいずれも20世紀前半のインド独立の英雄です。2人は実際には交わることはなかったのですが、「二人が出会っていたら」という発想からのフィクションです。

RRRとは

映画のタイトルの「RRR」とは何の意味があるのだろうとネットを調べてみたら、何と監督(ラージャマウリ)と主演2人の名前にRが3つ入っているので仮題として計画をしていたのですが、それがそのまま本タイトルとなったそうです。対外的には英語で蜂起(Rise)、咆哮(Roar)、反乱(Revolt)の頭文字を取って「RRR」となっています。また、テルグ語タミル語カンナダ語マラヤーラム語では、怒り、戦争、血を意味するRの入った単語がサブタイトルとして付けられています。

また、インド映画を観てみたくなりました。

こんな本読みました「日の名残り」

上品な作品

読みたいなと思っていながら今さら読むのはなぁ~って思っている本ってたくさんありませんか?私はたくさんあるのですが、その内の一冊に手を伸ばしてみました。     ノーベル文学賞作家であるカズオ・イシグロの「日の名残り」(原題:The Remains of the Day)です。外国の作品は翻訳の力によることが多いというのが私の持論なのですが、この本は原作もいいのでしょうが、翻訳もすばらしく、とても上品な作品に仕上がっています。小説を上品という評価していいのかわからないのですが、ボキャブラリーの少ないハルには上品という表現しか思い浮かびませんでした(ww)クオリティが高いとも違うし、上質と表現した方がよい小説でした。

作者のカズオ・イシグロは1954年に長崎県で生まれました。1960年に父親の仕事の関係でイギリスに渡り、現在は英国籍です。若い頃はなんとミュージシャンを目指してデモテープをレコード会社に送ったりしていたこともあったそうです。この「日の名残り」は1989年に英語圏最高の文学賞と言われる「ブッカー賞」を受賞し、イギリスを代表する作家となりました。そして、2017年にはノーベル文学賞を受賞しました。前年の2016年のノーベル文学賞は「ボブ・ディラン」が受賞したのですが、ミュージシャンになろうとしていたきっかけの一つがボブ・ディランだったそうなのですが、カズオ・イシグロボブ・ディランの翌年にノーベル文学賞を受賞したというだけで、ボブ・ディランとつながっていると喜んだという話しを聞いたことがあります。また、この作品は1993年にはアンソニー・ホプキンス主演で映画化されたそうです。残念ながらハルはまだ観てません。

ストーリー

1900年代前半、イギリスの貴族が所有していたお屋敷に努める「ミスター、スティーブンス」は、現在の館の主人である、アメリカ人のファラディ氏に勧められてイギリスの田園地帯をドライブ旅行することになりました。長年仕えていたダーリントン卿への思いや、父親との関係、屋敷を離れて久しぶりに会うことになった女中頭のミス・ケントンとの思いでが旅行中も頭をよぎります。上流階級の執事だったというプライドがところどころ出てきて、周りの人々を混乱させたり、困らせたりしますが、古き良き時代のイギリスを上手く描いていると感じます。つい先日、エリザベス女王(クイーンエリザベスⅡ世)が亡くなりました。テレビに映る姿しかハルにはわかりませんが、上品な言葉遣いや上品な仕草は、この小説の主人公であるミスタースティーブンスにもつながるものがあることでしょう。

翻訳家の役割

翻訳小説には翻訳家が必ず関わってきます。この「日の名残り」を翻訳したのは、「土屋政雄」さんという方です。イギリス・アメリカのミステリー翻訳の仕事が多い人ですが、カズオ・イシグロの日本での最初の翻訳として仕事が来たとのことです。当初の出版は中央公論社ですが、ハルが読んだのはハヤカワepi文庫版です。この作品を翻訳したからということで、その後のカズオ・イシグロの作品の翻訳の多くは土屋さんがすることが多いです。この翻訳をするときに気を使ったのはおそらくミスタースティーブンスの言葉遣いではないかと感じました。上流階級社会の執事として常にきちんとした言葉を使っていたはずなので、翻訳するにあたってもその辺りをどのように表現するかは苦労されたのではないかと察します。以前もブログで書いたことがあったと思いますが、外国の小説の面白さの50%は翻訳の力によります。外国語をそのまま訳すだけでは、原作の面白さ、意味、などは全く伝わらず、技術文献を読んでいるような雰囲気になります。翻訳する際には、その場面を頭に浮かべながら、その人物の性格からどのように言うのが適切かを常に考えて、日本語に置き換える必要があるのだと思います。ハルは翻訳はしたことがありませんが、学校での英語の授業などを思い出すと、日本語に直せた(翻訳とは言えません)だけで満足をしていました。この作品を始めの数ページを読んで、土屋さんの翻訳技術の高さを強く感じた作品でした。

こんなコンサート行きました「トリトン晴れた海のオーケストラ」第11回演奏会

トリトン晴れた海のオーケストラとは

2022年10月1日に東京晴海にある「第一生命ホール」で行われた、「トリトン 晴れた海のオーケストラ」の第11回演奏会を聴いてきました。この「トリトン 晴れた海のオーケストラ」という名前を知っている方はかなりコアなクラシックファンの方だと思います。正直言って私も聞いたことがありませんでした。HPによると2015年にNPO法人トリトン・アーツ・ネットワークが立ち上げた室内オーケストラです。メンバーも少数精鋭で室内楽以上、大規模オーケストラ未満の大きさです。そのため今までの演奏曲目はモーツァルトからベートヴェンの時代の曲が大半となっています。指揮者は置かずにコンサートマスター矢部達哉氏が演奏をまとめています。ご存じの方も多いと思いますが、矢部達哉氏は東京都交響楽団のソロ・コンサートマスターとして活躍されている方です。その関係もあるのでしょうか、このオーケストラのメンバーの多くは東京都交響楽団に属しています。先ほど、室内楽以上、大規模オーケストラ未満と書きましたら/が、今回の弦の演奏者は約20名で、その内東京都交響楽団のメンバーは矢部氏を含めると10名います。それ以外は東京交響楽団NHK交響楽団などに属しながら、「トリトン 晴れた海のオーケストラ」の活動も行っているようです。今までは年2回の公演を行ってきており、今回は第11回目の演奏会でした。

ベートーヴェン「大フーガ」変ロ長調 op133

今回の「大フーガ」は弦楽四重奏曲第13番の第3楽章を、弦楽オーケストラ用に編曲されたバージョンです。本来4人で演奏する弦楽四重奏曲を20人で演奏するのですから、かなり迫力のある内容に仕上がっています。また弦楽四重奏では入っていないコントラバスのパートも加えられた曲ですから、より一層重厚な音のハーモニーが続く曲となっています。1曲目を聴くまで「トリトン 晴れた海のオーケストラ」のメンバーのことを何も知らなかったので、初めの音を聴いたときのとても素晴らしい音合わせだなと感じました。パンフレットをよく読んでみると、メンバーの半数が東京都交響楽団のメンバーということでしたので、呼吸もぴったりなのはなるほどと納得しました。

モーツァルト ピアノ協奏曲第9番 変ホ長調 「ジュノム」K271

今回のコンサートを聴きにきた一番の目的である、小林愛実さんの登場です!この日の演奏会は元々14時開演の1回だけの予定のようでしたが、チケットが完売のため急遽18時開演の、1日2回公演になりました。ハルは2回目の18時開演を聴いたのですが、ほぼ満席の状態でした。「トリトン 晴れた海のオーケストラ」の過去の公演のお客様の入り具合はわかりませんが、今回の1日2回公演になったことと、2回目が満席だったのはおそらくですが、小林愛実さんの演奏目当ての方が多かったのではないかと予想されます。

「ジュノム」はモーツァルトのピアノ協奏曲の中では初期に属しますが、よく知られた曲の割にはそれほど演奏される回数は多くないような気がします。小林愛実さんも今回初めて弾くとHPで書いていました。演奏はいうまでもなく素晴らしく、ずっと聞き入ってしまいました。演奏後の拍手もかなり大きく、小林さんも満足そうに見えました。この後アンコールが1曲あったのですが、お客様の期待を感じ取ってなのかはわかりませんが、ショパン24の前奏曲の第17番です。ご存じのように小林愛実さんは昨年、ポーランドの首都ワルシャワで開催された第18回ショパン国際ピアノコンクールで第4位に入賞されました。このコンクールはショパンピアノ曲だけで勝負をするという、他にはない特徴があります。このコンクールで上位入賞するといわゆる「ショパン弾き」というネームが付くケースがままあります。それを避けたのがマウリツィオ・ポリーニです。彼は1960年に開催された第6回のコンクールで第1位となりました。しかし自身の研鑽と、「ショパン弾き」のレッテルを貼られるのを避けるために、コンクール後約10年間はイタリア国内で演奏活動を行っていただけという逸話があります。小林愛実さんもショパンはもちろん好きな作曲家だとは思いますが、アンコールでショパンを弾くかどうかは迷ったのではないかと勝手に推測しています。

モーツァルト 交響曲第36番 「リンツ」K425

休憩後は「リンツ」です。この曲はよく演奏されるので、皆さんも聴く機会が多いのではないでしょうか。トランペットも入ってステージ上には約30人の演奏者です。モーツァルトからベートーヴェンくらいの時代では、この程度の大きさのオーケストラが標準だったのではないでしょうか。ハルもモーツァルトベートーヴェンは好きですし、ショパンもとても好きな作曲家です。バッハもよく聴きます。演奏はとても素晴らしく、楽しく聴くことが出来ました。座った席は2階の左側だったのですが、全体を見回せる席だったのでどこに注目しようか目移りしてしまいました。また、2曲目の小林愛実さんの演奏の際は斜め後ろ上から見下ろせたので、指の動き(そこまで視力はよくないのですが・・・)までよく見えて、いい席に座れたと一人ほくそえんでいました。ハーモニーもいつも同じ楽団で演奏している人達が多いのでとても美しく、そしてラストはとても力強く、元気をもらって曲を聴くことが出来ました。

おまけ 気づいたこと

今回の公演ではオーボエのオリジナルメンバーの広田智之氏が体調不良のため出演しておらず、代わりに荒木奏美さんが出演するということが入口で配られていたチラシに記載されていました、経歴を見ると東京藝術大学在学中の21歳の時に東京交響楽団のオーディションに合格し、2015年6月から主席オーボエ奏者として活躍されている方でした。モーツァルトの2曲は両方ともオーボエが入っているので注目して聴いていましたが、荒木さんのオーボエがとてもよく聴こえてソリストとしても十分活躍できる人なんだろうと納得して聴いていました。今後、名前を聞く機会が増えることを期待しています。

リンツ」の演奏が終わった後、アンコールがあるのかと思って拍手をしていたのですが、数回のカーテンコールの後終了してしまいました。短い曲でもいいでのアンコールがあればよかったのにと思いました。でもカーテンコールの際に小林愛実さんも再度舞台に出てきてくれたので嬉しかったです。

次回の演奏会は2023年1月21日(土)に、ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第3番と、同じくベートーヴェン弦楽四重奏曲第14番の弦楽オーケストラ版です。ピアノは小山実稚恵さんです。行ってみようかなぁ。行ったらまた報告します!

こんな本読みました「アポロ18号の殺人」

読みやすいですよ

今年(2022年)の夏に発行された新刊です。上下2冊です。出版は早川書房、ハヤカワ文庫SFの2375.2376です。

この本を本屋で見かけて帯を読んでみると「ありえたかもしれない過去への、興奮の旅。宇宙飛行士について書くのに宇宙飛行士は最適だ!」と書いてあるのですが、この帯の文章を書いたのが、「プロジェクト・ヘイル・メアリー」の作者のアンディ・ウィアーです。今年の初めに本屋で見かけて買ったのですが、内容が面白いのと翻訳がとてもよかったので、アンディ・ウィアーの本を続けて読んだくらいでした。そのウィアーがコメントを書いている本なので、きっと自分には読みやすいだろうと思ってジャケ買いしました。(本でもジャケ買いと言うのでしょうか?)翻訳作品が読みやすいか、読みにくいか。あるいは面白いか、面白くないかは翻訳者の腕だと思っています。この本はハルにとっては当たりでした!

幻のアポロ計画

この本の作者はクリス・ハドフィールド。カナダの生まれだそうです。予備知識なく、読み進めていて感じたのは、NASAの内情やアポロ計画についてかなり細かく描かれているなということでした。なぜかというとこのクリス・ハドフィールドは本当に宇宙にいった宇宙飛行士なんです。彼は1995年と2001年にスペースシャトルで宇宙に行き、また2012年にソユーズで3回目の宇宙へ行って、カナダ人として初めて国際宇宙ステーションの船長を務めた人だそうです。なるほど、どうりで宇宙に関することに詳しいはずです。地球上での打ち上げまでの段取りや、打ち上げロケットの内部の様子、また宇宙空間での人間のからだの状況など実体験に基づいて描いていますので、臨場感があります。

しかし、歴史上の事実と違う大きな点が一つ!今の若い人たちアポロ計画と聞いてもしらない人が多いと思いますが、1961年から1972年にかけて行われた、アメリカ合衆国が月に人類を到達させるという計画です。1961年に当時のアメリカ大統領のJ・F・ケネディが発表しました。アポロ計画は予算の問題などもあり17号で終了したのでした。したがってこの小説のタイトルである「アポロ18号の殺人」は、パラレルワールド的にアポロ計画が継続されていた状況下で話しが進みます。

ストーリー(ネタバレなし)

主人公カズ・ゼメキスは1973年にアポロ18号の打ち上げスタッフとしてヒューストンに着任する。今回の計画には東西冷戦が大きくかかわっており、宇宙空間や月の上でも様々な冷戦や実践が行われ、人の命も数人奪われてしまいます。当時の米ソは宇宙開発を巡ってもしのぎを削っており、どちらが宇宙に人を先に送ったか、どちらが先に月面に到着したかなどに先を争っていました。争うというよりも競い合って、科学技術の発展に結び付けばいいのですが、科学の歴史は戦争の歴史でもあります。戦争があったから科学技術が発展したという一面があることは大きなことではないかと思います。そのような先を争う技術戦争というか、今回は月面であるものを見つけて、それを科学技術にどのように活かしていくのかという点が争いの源として描かれています。      この本の日本での題名が「アポロ18号の殺人」となっているのですが、原題は「The Apollo Murders」です。直訳すると「アポロの殺人」。本の中で描かれているのは、アポロ18号計画を巡る話しなのですが、日本の題名であえて「アポロ18号・・・」と入れなくてもいいいのではないかなと感じました。本を読む前に思っていたのは、アポロ18号の中で殺人が起きるんだろうということでしたが、実際は・・・ もしこの本をお読みになる方がいらっしゃいましたら、原題の「アポロの殺人」という題名だと思って読み進めることをお勧めいたします。

この本を読む前は、松本清張カズオ・イシグロなどSF以外の本を読むようにしていたのですが、学生時代からSF好きでしたので読書がどうしてもSFに片寄ってしまします。でも好きなので仕方ないですかね(笑)