こんな本読みました「日の名残り」

上品な作品

読みたいなと思っていながら今さら読むのはなぁ~って思っている本ってたくさんありませんか?私はたくさんあるのですが、その内の一冊に手を伸ばしてみました。     ノーベル文学賞作家であるカズオ・イシグロの「日の名残り」(原題:The Remains of the Day)です。外国の作品は翻訳の力によることが多いというのが私の持論なのですが、この本は原作もいいのでしょうが、翻訳もすばらしく、とても上品な作品に仕上がっています。小説を上品という評価していいのかわからないのですが、ボキャブラリーの少ないハルには上品という表現しか思い浮かびませんでした(ww)クオリティが高いとも違うし、上質と表現した方がよい小説でした。

作者のカズオ・イシグロは1954年に長崎県で生まれました。1960年に父親の仕事の関係でイギリスに渡り、現在は英国籍です。若い頃はなんとミュージシャンを目指してデモテープをレコード会社に送ったりしていたこともあったそうです。この「日の名残り」は1989年に英語圏最高の文学賞と言われる「ブッカー賞」を受賞し、イギリスを代表する作家となりました。そして、2017年にはノーベル文学賞を受賞しました。前年の2016年のノーベル文学賞は「ボブ・ディラン」が受賞したのですが、ミュージシャンになろうとしていたきっかけの一つがボブ・ディランだったそうなのですが、カズオ・イシグロボブ・ディランの翌年にノーベル文学賞を受賞したというだけで、ボブ・ディランとつながっていると喜んだという話しを聞いたことがあります。また、この作品は1993年にはアンソニー・ホプキンス主演で映画化されたそうです。残念ながらハルはまだ観てません。

ストーリー

1900年代前半、イギリスの貴族が所有していたお屋敷に努める「ミスター、スティーブンス」は、現在の館の主人である、アメリカ人のファラディ氏に勧められてイギリスの田園地帯をドライブ旅行することになりました。長年仕えていたダーリントン卿への思いや、父親との関係、屋敷を離れて久しぶりに会うことになった女中頭のミス・ケントンとの思いでが旅行中も頭をよぎります。上流階級の執事だったというプライドがところどころ出てきて、周りの人々を混乱させたり、困らせたりしますが、古き良き時代のイギリスを上手く描いていると感じます。つい先日、エリザベス女王(クイーンエリザベスⅡ世)が亡くなりました。テレビに映る姿しかハルにはわかりませんが、上品な言葉遣いや上品な仕草は、この小説の主人公であるミスタースティーブンスにもつながるものがあることでしょう。

翻訳家の役割

翻訳小説には翻訳家が必ず関わってきます。この「日の名残り」を翻訳したのは、「土屋政雄」さんという方です。イギリス・アメリカのミステリー翻訳の仕事が多い人ですが、カズオ・イシグロの日本での最初の翻訳として仕事が来たとのことです。当初の出版は中央公論社ですが、ハルが読んだのはハヤカワepi文庫版です。この作品を翻訳したからということで、その後のカズオ・イシグロの作品の翻訳の多くは土屋さんがすることが多いです。この翻訳をするときに気を使ったのはおそらくミスタースティーブンスの言葉遣いではないかと感じました。上流階級社会の執事として常にきちんとした言葉を使っていたはずなので、翻訳するにあたってもその辺りをどのように表現するかは苦労されたのではないかと察します。以前もブログで書いたことがあったと思いますが、外国の小説の面白さの50%は翻訳の力によります。外国語をそのまま訳すだけでは、原作の面白さ、意味、などは全く伝わらず、技術文献を読んでいるような雰囲気になります。翻訳する際には、その場面を頭に浮かべながら、その人物の性格からどのように言うのが適切かを常に考えて、日本語に置き換える必要があるのだと思います。ハルは翻訳はしたことがありませんが、学校での英語の授業などを思い出すと、日本語に直せた(翻訳とは言えません)だけで満足をしていました。この作品を始めの数ページを読んで、土屋さんの翻訳技術の高さを強く感じた作品でした。